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第7回「学生スポーツとコンプライアンス」講演会 

  
國廣 敏文
学校法人立命館常務理事
立命館大学スポーツ強化センター長
 2014年(平成26年)
9月27日(土)
立命館大学衣笠キャンパス 

  立命人としての誇りを胸に

1 はじめに
 立命館大学生に関する不祥事や懲戒事例は昔からあったのですが、昔と違うのは、いろんな社会環境が違い、特に情報化が進んでいます。ネット上での不適切な書き込みや写真が問題となっています。これらはネットで瞬時に日本国内だけでなく世界にも広まっていく、社会環境の大きな変化があるということを踏まえておかなければいけないと思うのです。
 そこで私が今日言いたいのは二つです。
 一つは、皆さんスポーツをやっているのですが、ルールのないスポーツをやっているクラブがありますか。どの競技でもルールがあると思うのです。ですからルールを守ってやらないと、審判から注意をされたりポイントを取られたりするわけです。どの組織においてもルールがあることが大事だということをまず頭に置いてほしい。
 二つ目は、さっき体育会委員長が言ってくれたとおり、「立命館スポーツ宣言」と「学生アスリートの誓い」の中にすべて入っているのです。それを何度も読んで、きちっと意味を理解して実際に行動してほしい。この2点です。

2 大学とコンプライアンス
 なぜ今コンプライアンスを問題にするかというと、立命館だけではないのですが、クラブの中でイジメや暴力行為や、ネット上での問題などいろんな問題が起きていて、それが社会的に大きな問題となることがあります。
 また、立命館大学でも実際に、犯罪行為、交通違反や情報倫理上の問題、それから試験における不正行為、あるいは暴力行為などが起きています。しかも、これまでと違い情報はすぐに広まって取り消せない。立命館の学生がやったこともネット上で嘘も本当も含めていろいろ書かれています。物に依存しインターネットに依存する時代の中で、いろんな問題が起きてきています。

3 コンプライアンスとは何か
 通常は法令遵守と言われるのですけど、歴史的にはアメリカで1960年代頃から、企業に関わる問題としてよく使われるようになりました。日本では1990年代位から企業の不祥事に関わって言われるようになりました。だから、コンプライアンスというのは、あまり一般化されていなかったのですけど、今では頻繁に使われるようになってきてます。
 企業で問題が起きた時は、大きなダメージとなる。事態を収拾するためにエネルギー、コストを使う。それから信用を失う。社会的にも制裁を受けて倒産する危機もある。単に法律を守るルールを守るだけでなく、社会規範も守るという意味もあるということを理解してほしいです。
 コンプライアンス違反をした場合は、刑事・民事上の責任を問われたり、行政上の責任を問われたりします。皆さんは学生ですから、例えば図書館の本を無断で持ち出したとか、カンニング行為などの学内での違反は、学内のルールで対応されるのですが、クラブで関わった場合は、クラブとしての責任も問われることになります。
 大学としては、そのクラブ、あるいは部員に対して、指導者に対して、処分を進めて対応をせざるを得ない。クラブに対しては団体処分、個人に対しては学生懲戒規程に基づいて戒告、厳重注意、一番重い退学、そういう形で対応するということになります。
 コンプライアンスというのは企業の不祥事や社会的な問題から言葉としては発生しましたが、コンプライアンス違反が起きやすい企業環境や体質をクラブに置き換えてみると、例えば金だけ儲けていればいい企業を置き換えると、勝てばいいというクラブ、ちょっとくらいのルール違反をしても勝つことがすべてというような勝利至上主義なクラブ。あるいはバレなきゃいいというようなクラブ。本学でもいくつかのクラブが廃部になった経験があります。事件や事故が起こった時に報告しない、むしろ隠す、そういう隠蔽体質があったクラブもあります。企業でもそういう秘密主義の企業は信用されない。それから一部の人が絶対的な権限を持っていることによって、自己中心的な幹部、上級生がいると、みんなが納得しない中で事が進んでいく、そんなクラブではあってはならないと思います。何か問題が起きた時も、精神論、あるいは個人の責任だけにとどめて、問題の本質がどこにあるか議論する習慣がないクラブも問題を起こしやすい。
 皆さんは留学生を除き日本という国に所属している。それから立命館大学という大学の学生である。それぞれのクラブに所属している。そういう3つの階層の中で生きているわけです。国の定めた法律や規則は守らなければいけない。それを犯したら罪に問われる。大学の定めたルールも守らなければならない。最初に言ったようにルールのないスポーツはないわけですから、競技のルールも守り、クラブのルールも守るのが基本になるということです。当たり前のことだと思われますが、その当たり前のことがなかなか実行できていない。難しい事ではなくて、モラルやマナーを守ればいいということなんです。

4 立命館大学とスポーツ政策
 立命館がスポーツに力を入れたのは1980年代からで、30年以上いろんな政策をしてきています。早稲田大学が体育会学生の公式戦出場単位取得基準を定めたことが、9月のはじめに新聞報道されました。ところが立命館大学は2001年から定めているのですね。もう15年位前からやっています。新聞には大きく取り上げられないのですけど、大学としてスポーツに力を入れ政策を作り、それを支援する制度を先進的に作っていることを理解してほしいのです。

5 課外自主活動(“学びと成長”の一環)としての学生スポーツの意義
 なぜ、大学としてスポーツを強化したかというと、スポーツは広い意味での課外活動・自主活動ですが、その中で心身ともに鍛えられるからです。文武両道とよく言いますけど、スポーツだけできても社会では通用しない。勉強だけできても通用しない。そういうことで立命館としては、正課と課外の両立とか、多様な学びの中で文武両道を目指すという考えを30年来採ってきたのです。
 そういう学びを通じて、集団性や社会性や人間力やリーダーシップを身につけてほしい。みんな苦しい中で、泣きながら汗を流しながらスポーツをやってきているわけです。仲間もいるし先輩もいる。達成感もあると思います。そこで身につけた総合的な人間力が社会に出て役に立つということで、課外活動を強化してきているのです。
 2009年に学びの実態調査という学生から取ったアンケートで、課外活動で身についたと学生が答えたものを見ると、「クラブの中で目的を設定すること」あるいは、「グループで行動してまとめること」などですね。だから私は課外自主活動やスポーツをもっと強化したいと思っているのです。そういう中で総合的な人間力、社会に出て役に立つための基礎的な力、前に踏み出す力、考え抜く力、チームで働く力をつけてもらいたい。

6 「立命館憲章」、「立命館スポーツ宣言」、「立命館大学学生アスリートの誓い」のもつ意味と重さ
 正課と課外の枠を越えて「自ら考え自ら行動できる」人材を育成するために、去年から今年にかけて監督やコーチ、スポーツフェローの方々、あるいは職員、部長、副部長、いろんなところで議論を半年以上重ね、目的理念として「立命館スポーツ宣言」、「立命館大学学生アスリートの誓い」を定め、その下に重点スポーツ政策をやってきています。スポーツとは人類共通の文化なのです。学園づくりの重要な要素であるということで、7点あげています。スポーツは平和でないとできませんので、国際社会の平和にも役立つということ、それから、スポーツをすることは人の権利だし、なおかつ一生涯やることによって健康を維持することができるのだということ、学園のアイデンティティも高め、地域社会にも貢献するということで学園として今年の4月に定めました。大学としてこういったものを定めたとは非常に大きいことです。
 それから学生諸君も、体育会本部で議論していただいて、「学生アスリートの誓い」として8項目を定めました。その前に、立命館憲章にあるように、「立命館は、教育・研究および文化・スポーツ活動を通じて信頼と連帯を育み、地域に根ざし、国際社会に開かれた学園づくりを進める」とあります。教育・研究「および」です。すなわち「教育・研究」と同じレベルで並んで、「文化・スポーツ」も大事だということを学園として宣言して、これをさらに具体化したものが「立命館スポーツ宣言」と「学生アスリートの誓い」と思うのです。これをしっかり読んで身につけてほしいと思います。

7 学生スポーツに臨むこと −スポーツ、大学、そして社会のリーダーたれ− 
 皆さんは注目され期待されているのです。私は役職柄、全国の校友会などに行きますが、「○○部はどうなんだ」とよく聞かれます。校友の皆さんは期待しています。それだけ注目されている。だから逆にいろんな問題を起こすと、「なんだ立命館の○○部は」ということになるのですね。体育会についての古いイメージも残っている。実は3万6千人の学生がいる中で体育会に所属しているのは、だいたい2千2〜300人です。この中にスポ選の学生もいるかと思うのですけど、スポ選の学生は毎年百数十名です。スポーツ選抜で入った学生は選抜されて入学したのです。より期待され注目され、何か事を起こすと批判されるのです。そういう栄誉ある地位にあることをしっかり頭の中に入れてほしい。
 それから、企業でも企業の社会的責任があるので、大学でもそういうことはあるのではないでしょうか。これは法律を守るとかルールを守るとかだけでなく、大学スポーツ、アスリートは期待されているのですね。この後の重信先生の講演にもありますので省略しますが、そういう潜在的期待に応えるために、マネジメントサイクル「PDCA」、これは自分たちの活動や今のクラブに問題・課題はないのか、あるとすればどうすれば解決できるのかという、ルールや体制作り、それをチェックして改善していくというサイクルですが、そういうものを各クラブで確立してまわし続けることが大事であり、そんな中で心身ともに成長していくとができるのだということです。

8 終わりに
 歴史から学び、人から学ぶということですが、年を取った人はだてに年を取っていない。いろんな経験、苦労もしているので、人から話を聞く、いろんな先人から学ぶ、本から学ぶと言うことも大事です。
 「心技体」ということがスポーツ選手ではよく言われますけど、心技体だけではなくて、「智恵」がいるんですね。私は「心技体智」ということでやっていきたい。
 立命館を卒業すれば、否応にも一生涯立命館なのですね。そういう自覚と誇りを持って、一生涯立命人として歩んでほしい。 


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