企業人から見た学生スポーツのコンプライアンス
1 はじめに
今日は、企業のコンプライアンスの取り組みについてお話させていただきます。スポーツ界と同様に企業でもコンプライアンス違反か発生しています。テレビ報道などで会社ぐるみの違法行為だとか、隠蔽をしていたとか、ずさんな管理とか、そういう言葉を耳にするかと思うのですけど、企業のコンプライアンス違反は大きな話題となります。学生の場合でも、大学として管理がどうだったのかというのが問われます。クラブの場合、顧問の先生だとか。監督、コーチ、そして3、4回生の責任が問われます。
今、日本人の平均寿命は80歳ちょっとなんですね。皆さんの平均年齢は20歳だとするとの平均寿命まであと60年です。大学の4年間は60年のうちのたった15%、だけどこの15%どう生きるかによって、皆さんの今後の60年を支配します。皆さんはある意味崖っぷちに立っているといえます。会社の場合、崖っぷちから安全な位置まで下がってしまうと進歩がないのですね。イノベーションを起こしたり、何かしようとすると、結構リスクを取らなければならない。だけど、そこでしっかりとした軸を持っていないと崖っぷちから落ちてしまう。皆さんも4年間しっかり過ごさなければ、60年間で崖っぷちから落ちてしまうことがあるのです。やはりある程度勇気を持って生きていかないと、イノベーションは起きないので、何でも後ろに下がって過ごしていれば良いということではありません。
コンプライアンス違反をすると周りの人に迷惑をかけます。皆さん親の気持ちわかりますよね。今まで一生懸命育てた我が子が人様に迷惑をかけてしまった。辛いですよね。学生時代というのはチャレンジし、誇りを持って夢をかなえて欲しい、ということを言いたい。一方、一生懸命努力したのだけど、結果が出ずにヤケになってしまった、ということもあるかもしれません。
また、優秀な学生ほど気をつけて欲しいのですけど、優越感からいじめ等の差別をしてしまうケースもあるかもしれません。そういった話は昔から同じかもしれません。しかし、世の中は昔と変わってきています。今年も東北地方の某大学の寮が、寮内における未成年の飲酒問題で閉鎖されましたた。大学として放置できなかったのですね。寮生がアルコール中毒で死んだりしたら本人の問題だけでなく、大学としての責任も問われる。学生時代というのは成長する時期であるのだけど、まだまだ未熟な時期ではないかと思います。
2 企業と学生スポーツの共通点
皆さんも組織の中の一員です。企業と共通点が多くコンプライアンスでも同じだと思います。企業と学生スポーツを、「成果」、「目的」、「組織」、「人」、「活動」に分けて比較してみます。
まず「成果」ですが、企業には収益が必要です。赤字だと企業活動が続かず倒産するのです。皆さんも単位が取れないと卒業できない。アスリートの皆さんの競技成績もそうですね。「成果」というのは組織にとって非常に大切なのです。
次は「目的」です。企業はお客さんに良い商品良いサービスを提供する。例えばスポーツ用品メーカーでは有名な選手にも使って欲しい。良いサービスと商品を提供することによってお客さんに喜んでもらうことが目的になります。学生はどうかというと、スポーツですから、感動とか勇気とか共感を与えることが目的になります。
次ぎに「組織」というものを考えてみましょう。企業の組織を考えますと「縦組織」です。社長もいれば専務、部長もいる。クラブでも部長先生もいれば監督、4回生、3回生もいる。組織構造は同じなのですね。
それから「人」ということを考えますと、企業では良い社員を育て会社の次の世代を担って欲しい。大学も一緒なんです。そういう意味では体育会というのは企業に似ていると思うんです。
「活動」も一緒です。皆さんも学業とか競技を通じて人を活かしていく。例えば野球で考えてみましょう。バッティングはいいけど、守備はだめな選手を代打の切り札で使うことでチーム力はアップする。企業でも一緒です。企業でもいろんな人がいます。弱みと強さをうまく調和させるということが大切です。
私は今日新幹線で京都に来たのですけど、東京駅では世界的に有名なことがあります。新幹線が東京駅到着後、折り返しまでの7分間で車内清掃します。この清掃会社が注目されており、海外の学生が研修に来ます。某国の運輸省の大臣が視察に来たとか、海外のテレビで放映されました。掃除をしてお客さんに快適に過ごしていただく、これがこの会社の目的なのですね。それを真摯にやっている。みんな誇りを持っているのです。
3 スポーツがもたらすもの
今年立命館大に入学した、ソチ五輪で銅メダルを取った平岡選手。これ(スクリーンの写真)を見てどう思いますか。本人も満足感があるけど、見ている人も嬉しくなる。これ(同)は、ドイツのメルケル首相です。サッカーW杯決勝です。サッカーというのは世界中の人々を魅了する。下(同)は、ソチ五輪スキーの距離の競技です。ロシアの選手が接触事故を起こしてスキーの板を折ってしまったが、カナダのコーチがスキーの板を交換した。こういうフェアープレーの精神は感動します。皆さんの目的も見ている人に感動とか勇気を与えることなのだと思います。
4 コンプライアンス違反の影響
一方でコンプライアンス違反が起きた場合どうなるか。
中国の食品会社で期限切れの食材を使っていて、それを使っていた企業は業績が落ちてしまった。また、ある教育関係の会社が3千500万件の顧客情報を流出してしまった。株価がぐーんと下がりました。それだけではなくて、お1人様あたり500円お支払いするということなんですけど、単純計算すると175億円支払わなければなりません。たった一人の犯罪です。これは組織にとって非常に大きな影響を与えます。
企業も社会的制裁を受けます。学生スポーツでも同じです。2年前ですけど、北海道のある大学のアメフト部において新入生の歓迎会で、酒を飲ませて9人が急性アルコール中毒になって、うち1人が死亡しました。そのアメフト部は廃部となりました。大学も管理責任が不十分として遺族と和解しています。コンプライアンス違反が生じますと非常に大きな影響があるということを肝に銘じておいて欲しい。他人事ではないのです。
5 コンプライアンスの考え方
大切なのは法令を守る、ルールを守ることだけではなく、組織が主体的に掲げる倫理、例えば、立命館スポーツ宣言や立命館大学学生アスリートの誓いを具体的に実践する活動をしてください。価値の共有ということは大切です。皆んのこれからの人生の軸になるような話なのです。企業においても、法令遵守と価値共有の二つをバランスよく使い分けています。価値の共有というのは、自分たちが決めた価値感を自分たちで守らなくてはいけないということです。主体的な判断と責任行動、組織の価値を構築し浸透させ、自ら問題解決行動を起こさなければいけないということだと思います。
6 コンプライアンスへの取り組み(T)〜PDCAサイクル〜
では、どう取り組むのか。先程もPDCA(PLAN〜DO〜CHECK〜ACTION)というお話がありました。学生スポーツも企業も組織で、共通点も多い。コンプライアンスも一緒なんですという話をさせていただきました。実は企業のコンプライアンスの取り組み方というのはアスリートの皆さんにとってもなじみやすいのではないかと思います。例えば、プラン(PLAN)。皆さん練習計画立て実行(DO)しますね。 途中で練習の進捗状況をチェック(CHECK)して何が足りないのかを考え、次の練習計画を見直しますよね(ACTION)。試合でもそうですよね。皆さんが日頃やってることをコンプライアンスに活かして欲しい。企業でも方針を立てて実行します。教育もやります。その教育が浸透しているかを社内監査で掘り下げをします。それが足りないということになると次に向けて是正をして行く。皆さんが日常行っている練習とか試合での考え方をコンプライアンスに応用すれば良いのではないかと思います。
7 コンプライアンスへの取り組み(U)〜三つの管理(未然防止、自主発見・早期発見、危機管理)〜
皆さん、健康管理に気をつけていますね。怪我とが故障をしないように基礎体力をつけたりしています。企業も同じです。法令違反や倫理違反を起こさないように、マニュアルを作ったりプログラムを作ったりする。そして研修をやります。そう言ってもいろんな事が起きるのですけど、大火事になる前にボヤで抑える。大事なのは自分たちでなるべく早く見つけるということなのですね。怪我や故障を放置しているとどういうことになるかというと、医師の判断で1年間プレーしてはだめだとか、中には手術を受けるケースもある。企業も同じですね。社長を解任するということもある。皆さんの日常やっていることをコンプライアンスに応用すれば、良いのではないかと思います。コンプライアンスの取り組みというのは、組織の健康管理というものではないかと思います。
8 ハインリッヒの法則
先程精神論の話が出ましたけれど、絶対に事故があってはならないという精神論はだめなんです。事故の存在を認める。よく企業では無事故○○日達成というのがあります。それだけで重荷になるのです。目標をゼロにすると、それにがんじがらめになってしまうケースもあります。ハインリッヒの法則といって100年前に考えられたものですが、一つの重大事故には29の軽微な事故があり、300のヒヤリハットが存在すると言います。皆さんも、今までのスポーツ経験でヒヤリハットがあったのではないでしょうか。いかにしてヒヤリハットをなくしていくかを考えなければならないと思います。
9 リーダーの役割(T) 〜真摯さ〜
リーダーの役割が非常に大きいのではないと思います。リーダーの方は真摯に向き合って欲しいなと思います。よく子供は親の背中を見て育つと言いますが、私の経験でも、企業において脇の甘い管理職のところで事故や法令違反が起きます。先輩の悪い習慣をそのまま引き継いでいくのですね。皆さんも放置とか、無関心とかうまくやれとかという話もあるかと思うのですけれども、罪の重さが小く発生・発覚の確率が小さいものは、だいたい目をつむるのですね。見て見ぬふりをする。罪が小さいけれど発生・発覚の確率が大きいものは、うやむやにする。うやむやにしてはいけない。罪が大きいけど発生・発覚の確率が小さいものは、無関心になってしまう。「大丈夫です。うちの部員は大丈夫です。」「それはよその部の話ですから。」と他人事にする。最悪は放置する。先程の北海道の某大学のアメフト部の飲酒事案の大学の調査結果を読みましたけれど、監督は「無茶をするな。羽目を外すな」という指示をしている。「無茶をするな。 羽目を外すな」ということは飲んでもいいという話と同じことです。やはりそういう指示を受けていれば学生としては「それ僕らには関係ないよね。」と思ってしまいます。リーダーの方は、真摯に取り組むことが大切なのだと思います。
10 リーダーの役割(U) 〜信頼〜
信頼が必要です。上級生になれば、だいたい上からの目線で話をしてしまいます。これはだめです。やはり耳を傾けて欲しいのです。後輩の言い分を聞いて欲しいのです。彼らが抱えている現実の問題とか要求とか価値を知る必要があります。それと、皆さんアスリートはイメージトレーニングをしますよね。コンプライアンスも一緒で、「学生アスリートの誓い」、これをイメージして欲しい。4回生になった時こういうイメージができているかどうか。イメージすると夢がかなうという話がありますが、こういったことを繰り返す。そして自分のものにするということが大切で、それが自然とコンプライアンスマインドにつながるのではないかなと思います。
11 結び
皆さんのよりどころは「立命館スポーツ宣言」「立命館大学学生アスリートの誓い」なんです。これを皆さんが普段やっているPDCAサイクルとか、健康管理ということを応用してぜひやっていただきたいなと思います。ちなみに、今日、校門から入ると、末川先生の石碑がありました。「未来を信じ、未来に生きる」。先程、崖っぷちの話をしましたけれど、皆さん、4年間一生懸命やらないと崖っぷちから落ちますよ。未来を信じて未来に生きるという精神が大切と思います。昨日から今日にかけて立命館大学が新聞報道に出ていましたね。スーパーグローバル大学の1校に選ばれた。誇りを持ってください。
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