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第8回「学生スポーツとコンプライアンス」講演会
 
谷川 尚己
びわこ成蹊スポーツ大学
学生スポーツコース 准教授
 2015年(平成27年)
9月26日(土)
立命館大学衣笠キャンパス 

  薬物乱用防止の現状とアンチ・ドーピング
  
   私が草津市教育委員会で保健体育課長をしていました時に、立命館大学にはすごくお世話になりました。陸上競技部の方に、子供への陸上教室に参加していただいたこともありました。
   学習指導要領の体育及び保健体育の目標は、生涯にわたって運動を楽しむ資質や能力、基礎です。将来、明るく楽しく豊かな生活を送れるように謳われているのです。私はそれを今も実践しているつもりです。サッカーやゴルフ、東京マラソンも走りました。君らも今は競技スポーツをしていてインカレ優勝を目指していると思いますが、いつまでもできないので、あまり体を壊して生涯スポーツができないことにならないように、体の手入れだけはしっかりしてほしいと思います。

1 医薬品について
 
    薬の役割は、人が持っている自然治癒力をサポートすることです。
    薬は胃で溶けて小腸で吸収されて肝臓へ行きます。そして血液の中に入って全身に回ってゆきます。そして肝臓で一部壊されて腎臓から尿として排出されてというサイクルとなっています。
    薬は血液の中に入って初めで効果が現れるのです。薬を飲む水の量が少ないと駄目なのです。水の量が少ないと、たとえば食道とかに引っかかるおそれがあり、肝臓まで行きません。さらにここで溶けて潰瘍が出てしまうというおそれもあるのです。ですから水かぬるま湯コップ一杯の量で飲んでください。これは薬の基本なのです。スポーツドリンクで飲んでも溶けないのです。今は水なしでも飲める薬もできているのですけど、できるだけ水またはぬるま湯で飲んでください。
    一日3回飲む薬、お昼に飲むのを忘れました。どうしますか? 1日3回飲む薬は、朝食の効果が薄れてきてお昼に飲みます。また、効果が薄れてきて夜に飲みます、薬を飲むのを忘れて、一気に2回分飲むと、決められた量より多く飲むことになり危険なことがあります。逆に病気が治りかけてきたからと言って、半分にすると効き目が表れないのです。ですからしっかりと飲むようにしてください。それから医者から「5日分の薬を出しました。飲みきってください」って言われたことがあったと思うのですけど、それは5日間でウイルスを死滅させるようにセットしているということなので、3日間で治ったからといって飲まないと再発してくるのですね。ですから飲みきるようにしてください。
  薬ってどんどん法律が変わっています。今までは一般と医療用薬品だったのが、OTC薬品というのが出てきました。この中で要指導医薬品と、第一種の医薬品というのは自分で勝手に買えないのです。第二種、第三類については自分で勝手に買うことができます。
  薬で注意してほしいのは、相互作用というものがあります。たとえばアルコールを飲むと、薬とアルコールが反応して薬が効かなかったり、効きすぎたりする危険性があるので注意してください。グレープフルーツジュースはよい反応をしなことがあります。あと一つ、納豆は体に良いと言われていますが、脳梗塞や心筋梗塞などで飲んでいる薬には、血液が固まらない成分があるのですが、納豆はそれを固める作用があるので、そういう人は納豆は駄目なんです。おじいさんおばあさんでそういう人がいたら教えてあげて下さい。薬とはすごく怖いところもあります。
  お薬手帳にはレシートを貼り付けてください。薬のケースも保存してください。ケースには、副作用被害救済制度と書いてあります。電話番号も書いてあります。これは、このケースまで保存しておくと救済制度が受けられるようになっている。ですから、箱も保存しておくほうがいいです。
 いつもと調子が違う時は医師に相談してください。主作用、副作用があり、副作用はスティーブンス・ジョンソン症候群というのがあります。一般用の風邪薬を飲んでも起こるということで、今から3年前にNHKの番組で放送されていたのですが、過去2年半前に130数名が亡くなったというふうに言われています。身近なところで起こりうることなので注意してほしいと思います。薬剤師に聞くことも大事だと思います。

2 薬物乱用の現状
   薬物とは何でしょうか? シンナー、覚醒剤、大麻、MDMA(合成麻薬)、たばこ、風邪薬・・・、実は全部なんですね。特にお酒やたばこは、大麻や覚醒剤、危険ドラックに結びつくゲートウェイドラッグと言われています。
 乱用というのは、社会ルールから外れた方法や目的でお酒を飲むという行動なのです。お酒を飲むのもいいのですけど、薬物を正しくない使い方をすること、1回でも乱用と言います。
  これを覚えておいてほしいのですけど、先ほど仲間意識の話をされたと思うのですけど、好奇心と仲間から外されるのが嫌だから一緒にやろうかとか、その1回が渇望をを伴ってしまう危険性があります。そうすると、耐性ができて依存性が出てきます。病院へ行っても、治ったように見えても、また何かストレスが起きた時に、「あの時気持ちがよかったことをもう一度やりたい」という気持ちが起こる可能性が高いのです。フラッシュバックと言います。渇望、耐性、依存、フラッシュバック、この4つのキーワードを調べておいてください。
  依存症とは、それらの刺激なしではいられない状態のことで、いろんな依存症があります。 お酒飲んで車等を運転してはいけないと言われていても飲んでしまう。病気なんです。パチンコに行っても負けるから行ってはいけないと言われても行ってしまう。病気なんです。そこから治して行かないと駄目なのです。
 依存に関する実験です。猿に薬を一定量注入します。猿は「気持ちがいいな、もう一度注入してほしい」と言ってこのレバーを叩きます。最初は1回だけ注入されるのですけど、その後は注入されません。猿は薬ほしさにレバーを叩きます。何回までたたくでしょうか?
 ニコチン、アルコール、モルヒネ、アンフェタミン、コカイン・・・、猿はコカインでは1万2800回も叩き、可哀想ですが亡くなりました。猿は薬物ほしさに叩き続けるのです。
 人間も同じようなことが起こるのです。もう同じ量では効かなくなってくる。最初は気持ちよくだんだん量が増え、2週間に1回だったのが1週間おきになり、2日おきになり、そして毎日になる。それも1日から5回から10回打つようになる。猿と人間一緒ですね。
 そして、とうとう妄想が起こってくる。「手をカッターで切れ」、「熱湯に入れ」などの命令が聞こえるようになってきます。
 このように体も心も薬物に支配されてしまう。

3 危険ドラッグ
 
 これは何でしょうか? 危険ドラッグです。
  危険ドラックはどのように作っているのか。それはどれほど恐ろしいものかということなのですが、ポリバケツに乾燥植物を適当に入れます。それに化学物質を適当にいれます。それを混ぜ合わせて袋に入れていきます。一つのポリバケツが空になりますと、また、乾燥植物を適当に入れて化学物質をいれます。作っている者でさえも、どんな反応をするのかわからない。
 今までの大麻では、カンナビノイド系という、大人しくなる成分と、カチノン系という、興奮する覚醒剤と同じような成分にだいたい分かれたいたのです。
 ところが、危険ドラックというのは、これはマウスの脳の細胞なんですが、2時間経つとこのように死滅していきます。
  これ食い合いしているのですね。お箸をつっこんでもかじりついてきます。
  上手に懸垂しています。上手に逆立ちをしています。じゃないのです。これ以上動けないのです。
 世界ではどんな刑罰があるのか、東南アジア系などでは全部死刑です。
 私は薬物乱用防止サークルというのを作って、学生と活動しているのですけど、10月3日に草津市のイオンモールでキャンペーン事業を行います。立命館大学の薬学部の先生と一緒になって学生も来てくれるのです。
 君ら、スポーツの夢を持っていると思うのですけど、叶うとは限らないのです。プロ選手になりたいとか思っているのだけど、叶わない時、自分でどういう生活ができるのかと、君らも将来の設計をしっかり立ててほしいなと思います。

4 アンチ・ドーピングとスポーツファーマシスト
 
 2020年、東京オリンピック誘致に成功した一つの数字があります。「0」なんです。何の「0」でしょうか。実はオリンピックでの日本人の薬物違反者がゼロなのです。アンチドーピング日本の誇る精神です。
  ドーピングと言えば、アメリカ・大リーグのロドリゲス選手が200何試合出場できませんでした。隠蔽をしたということで、重い処分が科せられました。陸上競技の100m走でもドーピングでメダルを剥奪されたりということがあったかと思います。
 ドーピングの定義なのですけど、世界ドーピング防止規程に定義されている8項目のうち、1項目でも該当すればドーピング違反となります。
 禁止薬物の使用はもちろん、禁止薬物を所持することも、検体の採取を拒否することもドーピング違反になります。 
 
    ドーピングはなぜ駄目なのか。選手自身の健康を害する。アンフェアー、社会悪、スポーツというものの価値を低めるというようなことが言えると思います。特に医薬品を使うことによって、通常容量をはるかに超えてしようされることがあるということは、致命的な有害事象が起こってもおかしくない。それが一番怖いことだと思います。不誠実ということです。スポーツマンシップ、フェアプレーに反するということ、反社会的行為、スポーツの文化的価値の低下、あるいは、青少年への悪影響もあります。こういうことがあって10の違反内容があります。
  ドーピング違反になるとどうなるかということなんですけど、メダルの剥奪を含む個人成績の失効、あるいは2年間の資格停止、それから将来の競技における資格停止、いろんな物質によって変わったりします。
  
  薬は、中身によって違反になるものと、そうでないものがります。サプリメントや栄養ドリンクでもグレーなんです。大会前に栄養ドリンクくらい大丈夫だろうと思っているかもしれないけど、これも実際は危険なのです。風邪薬でも、薬によっても駄目なものもあります。エフェドリン等、スポーツ界では中枢興奮のため禁止物資とされています。これは、市販の総合漢方薬にも含まれています。これはOTC薬第二種なのです、手にとって買えるのです。それが違反になるという心配があるのです。ネットでも買えます。漢方薬もそうですし、サプリメントでも自己責任で使用することが大事と言われています。実際、薬でどれが引っかかるのかは、実は私もわかりません。これは専門家でないとわからないです。
 2015年禁止表固定基準というものがあります。この中でかなり細かくあるのですが、ネットで引き出せますので、一度引き出して確認してください。
 治療の使用特例というのがあります。風邪を引いたりしますよね。これが医学的にこれを使うしかないということがあります。除外措置というのがあります。原則として使用前に申請するというのが大事となってきます。
 
  2013年から国体ではドーピング検査が始まりました。スポーツファーマシストという立場の人がドーピングの防止に向けて順次情報を提供しています。スポーツドクターあるいはスポーツファーマシストですね。公認のスポーツファーマシストの認定制度もあり、約1000人前後認定されていて、各府県にいます。ドーピング概要というのもありますし、この電話番号をメモしておいてください。京都薬剤師会にファクスすれば、「この薬はどうですか」というのを教えてくれるということです。
 小学校の段階で薬物の正しい方法を学ぶと言うことも大事かなと思います。
 今日の講演は、この3つが関連していると思い話しています。薬は正しい飲み方を理解するのと、異物は口の中に入れないということは、薬物に手を出さないのではないか、スポーツをやる人はルールを守る。ドーピングに対する正しい行動をとるのではないかというように思います。うっかり飲んだ風邪薬や花粉症の薬、漢方薬やサプリメント、これによって全く不注意でもドーピング違反になる可能性があります。スポーツファーマシストに相談することが大事かなと思います。
 この3点の話を元にして、自分の体を大切にするということと、自分の命は自分で守るとの意識を持ってください。
 さらに、スポーツでがんばる人は、自分の力で邁進してください。2020年、皆さんは選手としてがんばって出てください。ボランティア、応援者、いろんな関わり方があると思います。私も選手としてがんばろうと思います。