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第9回「学生スポーツとコンプライアンス」討論会 
(敬称略)
   
コーディネーター  水田 雅博  立命館スポーツフェロー会長
パネリスト 佐久間春夫  立命館大学学生部長(スポーツ振興担当)
       小林 雅義  元・京都府警察刑事
       谷川 尚己  びわこ成蹊スポーツ大学 学校スポーツコース 教授
      池上昂志郎  立命館大学体育会 自動車部4回生
      福島 良紀  立命館大学体育会 アーチェリー部3回生 
 2016年(平成28年)
9月17日(土)
立命館大学衣笠キャンパス 
 
水田 雅博 佐久間 春夫 小林 雅義 谷川 尚己 池上 昂志郎 福島 良紀
水田
 早速ですけど、ただいまお二方からご講演をいただきましたが、学生の立場で感想など、どんな風に受け止められたのかを、池上君、福島君の方からお願いします。

池上
 今回の小林先生、谷川先生のご講演をお伺いして、私が特に印象に残ったのは、私が所属している自動車部はコンプライアンスに非常に敏感なクラブですが、その中でも交通違反は切っても切れないものであります。立命館の体育会のルールを守るというよりも、社会的な責任能力という面で、よりルールを守っていくということは、重要なのかなと感じさせられました。
 それから、谷川先生のドーピングのお話しを伺いしたのですけど、普段から口にする栄養ドリンクだとか風邪薬とかトローチとかが、ドーピングに関わってくるということを初めて耳にさせていただいて、非常に驚いているのが正直な感想です。
 それから最後にお話しをされていた、日本人のドーピング違反者が「0」ということにも非常に驚いきまして、一人一人が日本人として日本人のアスリートとしての意識を持っているのが理由なのかなと感じました。

福島
 私が一番、小林先生のご講演の中で印象に残ったのが、練習中の体罰です。ここにいる皆さんに関しても、練習中の体罰、殴る蹴るとかあからさまなものでなくても、圧力かけたりもっと詰めようかなという話を時々耳にすることがあるのです。私の高校も、あまり詳しくは言えないのですが、全国的にニュースになってしまったこともあります。練習中の体罰ではないのですが、顧問の先生と生徒がうまく行ってなくて、問題をこじらせてしまってニュースで報道されたこともあって、この問題に関して私自身も身近かつ怖い問題だと認識していました。
 やっぱり練習中の体罰などに、皆さんが無意識のまま巻き込まれてしまうとおっしゃっていたのですが、そのとおりだと思います。やりたくてやっているわけではないので、皆さんもこういう講演会を通して体罰や体罰まで行かなくても厳しい行為の線引きはしっかりした方がいいのかなと思いました。
 谷川先生のアンチドーピングに関してですが、私が高校の時、テニス部だったこともあり、テニスの話題になるのですが、確か今年の頭ぐらいにシャラポア選手がマスターズかグランドスラムの大会でドーピング検査に引っかかってしまったという話がありました。私としてはシャラポアという有名な選手で、とてもビックリしました。12月くらいまで禁止されていなかった薬物で陽性反応が出たということで、結構厳しく取り締まられているのだと感じたのですが、その後、6月くらいに2年くらいの出場停止の処分を受けたということで、やっぱり薬物乱用は重いものだという認識を改めました。先程の講演内容にオリンピックでのドーピングのお話しがありましたけど、オリンピックのメダルというのはすごく重いのだということを改めて感じました。国家ぐるみでドーピングをしてでもオリンピックで結果を出したい。やっぱりスポーツというのはそういう力があるのだなというところを先程の講義を通して再認識をしたところです。

水田
 優等生の発言をいただいて、「そら勝つためには少々のことは必要だ」とか、「厳しいギリギリのところまでやらなければ勝てないだろう」とか、その言葉が出てくるのかなと思ってら、そうではなかったので、ここにおられる皆さんは、1回生の方々が多いと思いますが安心をしていただいたらいいのかなと思いました。
 佐久間先生、今の2人の意見、そして、お二方の講師のお話をお聞きいただいて、先生の立場からどういうふうに感じられたのでしょうか。

佐久間
 今、水田会長から「優等生的な」というのがあったのですが、その中でも運動をする選手の中にはスレスレのところにいる選手も結構いるのじゃないかなと感じています。成果主義といいますか、勝たなければダメという、私は心理学が専門なものですから、動機はいろいろあると思います。やはりスポーツに限らず、今日の社会もそうですが、成果主義というか結果だけにこだわりドーピングということもあるのかなと思います。
 そうではなくて、最初の挨拶の時に申し上げたものですが、何のためにスポーツをするのか。スポーツ後進国は国威発揚のためスポーツを利用しています。でもスポーツというのは、そういった手段に使われるのではなくて、一人一人の生活を豊かにしていくために、スポーツが行われるのです。それがスポーツ文化の始まりなのですけど、全く違った形に利用されやすい。そして、精神的にも肉体的にもギリギリのところでやっていて、そこから逃れたいと手を出してしまう者もいる。そういったことを防ぐためにも、これは体罰にも関係するのですけど、やっぱり指導者との人間関係です。その元になるのは、普段の挨拶ともつながるのですけど、そういった中ではやりいろいろと考えることはあるのじゃないのかと思っています。
 小林先生の講演にもありましたが、非常に生々しい事例が多くあったのですが、刑事罰、民事罰、行政罰というのがあって、一番大きいのは社会的責任ということ。皆さん家族を含めて自分だけの問題ではないのだということをよく考えていただきたいと思います。
 それから、谷川先生のお話ですね。身近な問題で、普段私も風邪薬などを飲んでいるのですけれど、こういうことも留意しなければならない問題だと思っています。私は本学でアイスホッケー部の部長をやっているのですけど、前にいた大学でもアイスホッケー部の部長をやっていて喘息発作の学生がいたのです。今考えたら危なかったのだと思うのですけど、試合前には薬を飲ませていました。そういった面でも指導者は無知ではいけないなと、今日のお話しから我々も十分勉強していかなければならないと感じました。

水田
 今のお話しを聞いていただいて、まずは小林先生から、私はスポーツの究極の目的は勝つことだと思うのですけど、そのギリギリのところでいかに対応していくかは、非常に微妙だなと思ったりしてしまう方なのですけど、そのギリギリの線など非常に難しい立場があろうかと思いますけど、そんなことを含めまして、まだまだ言い足らなかったことがありましたらお願いします。

小林
 京都府警察の前交通部長ですので、池上さんのほうから交通事故の話がありましたので言っておきますと、交通事故には致死率というのがあるのですけど、自動車で走っていて時速30キロで生身の人間に当たりますと致死率は10%と言われています。それが時速50キロに挙がると80%の人が死ぬ。そのように死亡事故は、スピード違反がほとんどだと言われています。スピードの速いか遅いかが致死率を変えるということで、今はスピード違反の取締りを重点に置いていますので、十分に気をつけていただいたいと思います。 
 それから、体罰の問題で、どこまでやったらいいのかというのがあるのですけど、これは非常に難しい問題だと思います。私は一番大切なことは、私は剣道をやっていたのですけど、剣道で言うことは、「師弟同行」と言い方をするのですけど、先生と弟子が一緒になって修行をするということなんですね。警察学校では本当にたくさん走らせます。警察学校の教官は、入学してきた学生よりもよく走る者がたくさんいます。「今日、ちょっと走ってこようか」と伏見区深草の警察学校から金閣寺までよく走っていました。警察学校の学生には、半年の間に京都から東京の日本橋までの距離を走るように言っています。ですから先輩が一緒になって汗をかく。一緒になって苦しい思いをすれば、体罰と言うことにはならないのではないか。先輩が笛を吹いて、「おい、行け」と言っているだけでは体罰なんだろうと思います。 
 それと何のためにスポーツをするのかというと、もちろん勝つためなのですが、私は今年の5月に剣道8段審査の立ち会いに行きまして、7段の先生が8段を受ける立ち会いをやったのですけど、一番最高齢は91歳でした。4人で一緒にグループを組むのですけど、91、88、88、86歳でした。その88歳の先生に「どれくらい稽古をされるのですか」と聞いたら、「いや、まあ5〜6日ですね」とおっしゃるから、「じゃ、週に1回は必ずされるのですね」と言ったら、「いや、週に5〜6日ですよ」とおっしゃってました。スポーツの目的というのは、生涯スポーツをするということじゃないのかなと思って、頭が下がる思いをしました。皆さんも是非、せっかく入られたスポーツ、今は勝つことが大切ですけど、それを長く続けるということを目標にしていただいたらいいのではないかなと思います。

水田
 それでは、谷川先生、先程体育会本部に行ったら、葛根湯が置いてあったように思うのですけど、そういう身近なところでいろんなものがあるなと感じたのですけど、もしも、まだ、この場で何かありましたらよろしくお願いします。

谷川
 今は世界と日本のアンチドーピング機構の方で、ドーピングを厳しく取り締まろうとする動きが出ています。先程も少し紹介したのですけど、日本アンチドーピング機構から禁止表国際基準というものがあります。ネットで出てます。24ページありますので、それを確認しておくことが大切かなあと思います。
 スポーツの目的は何かなということに戻ることも必要かと思います。東欧圏では国の高揚を図るために、とにかくオリンピックあるいは世界大会で勝つことを目標に、いろんな取り組みをしています。例えば血液を抜いておいて大会前に元に戻すとか、あるいは、少し興奮する成分を入れて元に戻すとか、そういう取り組みをしてきたのですね。そんなことをした後で、その人は健康を害しているのです。早く亡くなったりとか、はやり人間の命の尊厳というのは大切だと思うのです。だから、それを勝利のために失うということのないスポーツの世界にしていく必要があるのかと思います。
 体罰についてですが、いつか桜宮高校で体罰があって、その時、私はびわこ成蹊大学の学生に体罰についてどう思うかアンケートをとったのです。そうしたら、4割くらいは「僕は先生の体罰のお陰で立ち直って、今ここにある」と言うのです。「君、先生になるのだろう」って言うんですが、それが現実なのです。立命館の皆さんは、そんなことはないと思うのですけど、体罰は絶対にダメなのです。叩く、蹴る、だけでなく、いろんな体罰があるので、それも含めてそれぞれの部の中で研修もしていく必要があるのかなと思います。

水田
 ありがとうございます。
 今のお話しを聞いて、今度は福島君、今日はどちらかと言えば1回生が多いのですけど、先輩としてクラブに置き換えたらどうするのかという、何か今日の話をどう活かそうということを考えて、何か意見がありましたら。

福島
 なかなか難しい話題だと思うのですけど、やはりスポーツをする人としては勝つことが目的なのですが、皆さん同じ練習場で汗をかいて一生に練習をしている仲間がいます。体育会というのは、個人競技の部活もあるのですけど、一人で闘うものでなくて、どの部も部の運営とかでもみんなで一緒に苦難を乗り越えて行くことになると思うのです。そういう所で体罰とかコンプライアンス問題が挟まってきて、部内の関係が悪化することがないと言い切れないですし。皆さんが意識していなければ、そういう問題が思いがけない所から飛び出してくるかもしれません。
 私の高校の先生の話ですけど、その先生がニュースになった時、その先生は意識して悪いと思ってやったわけでなくて、生徒のためにきつい言葉をかけて、生徒の精神面の成長を期待してやっていたそうなんですけど、やはりそれがまずかったのだと思います。自分が良かれと思ってやっていることでも、時に他人に迷惑をかけてしまう、あるいは、他の人を傷つけてしまうということはあると思います。
 この学生スポーツの不祥事防止策という講演は、皆さんにとって非常に大事なものとなってくると思います。特に不祥事や体罰は、皆さんが考えなければならないところだと思いますし、思いかけずドーピングに関わってしまうということがあるかもしれません。皆さんが部活に帰ってからも、この講演を聞いて終わるのではなくて、1回生、特にスポーツをこれから4年間やっていくわけですので、どういう向き合い方をしていくのか、幹部、運営していく側になった時、1回生に向かってどういう対応をしていくのかを考えるきっかけになれば良いのかなと思います。皆さん帰ってから1回生同士で話し合っていただければいいのかなと。また、引率で来られている方も、そういう話し合いを幹部同士で話し合っていただければ良いのかなと思います。

水田
 ありがとうございます。では、池上君も一言。

池上
 勝つことにこだわるということは、最も部活の中で重要視されることと思うのですけど、その中でも体罰であったりとか、精神的に責めるような言葉を発する、根性論でどうにかする、どうにかなるという概念はもう古いと思います。これからは一人一人が意識を持って、仲間意識を持って立命館の体育会規則に基づくような行為をより重要視するべき時代だと思っています。
 まさに小林先生がおっしゃった、「時を守り、場を清め、礼を正す」という、この当たり前のことを当たり前にこなすということが、重要になってくると思います。
 皆さんも、今日ここに来ていない一回性も、時間を守る。そして雰囲気を良くすると、それから、上回生に対してだけでなく学校関係者、たとえばクレオテック(立命館大学関連企業)さんにもしっかり挨拶をして、よりよい雰囲気を作っていくことが必要だと思います。

水田
 ありがとうございます。コーディネーターが締めくくろうと思っていた内容を話していただきました。
 それでは佐久間先生、最後に締めくくりをお願いします。

佐久間
 何のためにスポーツをするのか、私がこだわっているのは、人によっては勝つため、勝にこしたことはない。でも、それがすべてかというと必ずしもそうではないと思っています。やはり私は4年間、自分を甘やかすことなくギリギリの生活を送っていったら、そういうことで与えられるのですね。いわゆるプロセス主義、過程主義というのが私は好きなのですが、その中で与えられるものは、ものすごく大きなものがあると思います。大学生活は人生の中でわずか4年間。皆さんは無理が利く。それくらいの覚悟を持って臨んでもらいたいと思います。人生の中でわずか4年間です。
 それから体罰の問題。本学では絶対に許しません。場合によっては、そのクラブの活動停止にもします。言葉の暴力も当然です。必ずしも身体的な暴力でなく言葉の暴力も大きい。それを防ぐために先程お話しがあった挨拶など普段からのふれ合いを是非大切にしてもらいたい。知らない振りをするのではなく、普段から挨拶をする。挨拶は人間関係の基本なのです。それを心掛けてもらいたいことと、今までいろいろと言われたことは、立命館大学学生アスリートの誓い、立命館大学スポーツ宣言、その中に謳っています。是非それを見てほしいと思います。皆さんの活躍を期待しています。
 スポーツ強化センターには、布施課長、田中担当課長がおられますけど、常に皆さんの活動しやすい環境を考えて、そして、活躍を期待していろんなクラブの応援にも行きます。是非そういう方にも挨拶してほしいと思います。

水田
 ありがとうございました。
 今日は日ごろ聞けないお話を、小林先生、谷川先生にしていただいたと思います。
 これからの時間も、コミュニケーションは大切だということです。
 谷川先生が最後におっしゃってましたとおり、より美しく人間らしく立命館の学生らしく、これからも活躍されることを祈念申し上げまして、討論会を締めくくりたいと思います。


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